12月22日に、仮処分申立を行いました

一部公表を避けた箇所があります。

仮処分命令申立書

平成21年12月22日

東京地方裁判所 民事第8部 御中

債権者代理人弁護士

当事者の表示 当事者目録記載のとおり

臨時株主総会開催差止仮処分命令申立事件

第1、申立の趣旨

債務者は、平成21年12月1日付及び同月15日付で招集した平成21年12月30日を会日とする、日本興亜損害保険株式会社と株式会社損害保険ジャパンとの共同株式移転計画承認の件を会議の目的とする日本興亜損害保険株式会社(本店所在地:東京都千代田区霞が関三丁目7番3号)の臨時株主総会を開催してはならないとの裁判を求める。

第2、申立の理由

1、被保全権利
(1)当事者等

①、日本興亜損害保険株式会社は、損害保険業、他の保険会社(外国保険業者を含む)の保険業に係る業務の代理または事務の代行、債務の保証、国債、地方債、政府保証債に係る引受、募集又は売出しの取扱、売買等を目的とする資本金912億4917万5209円、発行済株式総数8億3374万3118株の株式会社である。

②、株式会社損害保険ジャパン(以下「損保ジャパン」という)は、損害保険業、他の保険会社(外国保険業者を含む)の保険業に係る業務の代行、債務の保証、国債、地方債、政府保証債に係る引受、募集又は売出しの取扱、売買等を目的とする資本金700億円、発行済株式総数9億8773万3424株の株式会社である。

③、債権者らは、日本興亜損害保険株式会社の株式を6カ月以上前から引き続き所有する株主である。

④、債務者は、日本興亜損害保険株式会社の代表取締役である。

⑤、債務者は、日本興亜損害保険株式会社代表取締役として、同社と損保ジャパンと、共同して、株式移転の方法により、平成22年4月1日付で両社の完全親会社となる持株会社「NKSJホールディングス株式会社」(以下「共同持株会社」という)を共同で設立し、共同持株会社が両社の株式を100%保有することとなる経営統合(以下「本経営統合」という)を実施したいと考え、両社の株式移転計画の承認を得るべく、下記の株主総会招集通知を発した。

1、日時平成21年12月22日(火曜日)午前10時

2、場所東京都千代田区霞が関三丁目7番3号当社(日本興亜損害保険株式会社)本店13階会議室

3、会議の目的事項

決議事項

〈会社提案(第1号議案及び第2号議案)〉

第1号議案
当社(日本興亜損害保険株式会社)と株式会社損害保険ジャパンとの共同株式移転計画承認の件
第2号議案定款一部変更の件

〈株主提案(第3号議案)〉

第3号議案
取締役兵頭誠、二宮雅也、山口雄一、橋本和生の4名の解任の件

株主提案(第3号議案)の議案の要領は、別冊1「株主総会参考書類」67ページに記載のとおりであります。
なお、第3号議案は、第1号議案(株式会社損害保険ジャパンとの経営統合に関わる会社提案の議案)が否決されることを条件とする議案でありますので、本臨時株主総会において第1号議案が承認可決された場合には、第3号議案は付議しないものとして取扱います。

⑥、平成21年12月15日、債務者は、「株主様へのより充実した情報開示を考慮し」との理由で、「臨時株主総会開催日の変更並びに招集通知及び株主総会参考書類等の記載内容の変更について(ご通知)」と題する書面を株主に発し、上記株主総会の招集日時を平成21年12月30日午前10時に変更し、同時に、株主総会参考書類の記載を同書面を引用するかたちで一部変更するとともに、議決権行使書面の行使期限を延長するなどした。

(2)被保全権利を根拠づける事実1———臨時株主総会招集通知の参考資料の株式割当に関する相当性に関する事項の虚偽ないし誤解を生じさせる表示

①、本件臨時株主総会参考書類には、

「当社(日本興亜損害保険株式会社)の取締役会は、メリルリンチより、平成21年7月29日付にて、一定の条件のもとに、本株式移転に係る株式移転比率(日本興亜損害保険株式会社の普通株式1株に対し、共同持株会社の株式0.9株)(以下本件株式移転比率という)が当社(日本興亜損害保険株式会社)株主(損保ジャパン及びその関係会社を除く)にとり財務的見地から公正である旨の意見書を取得しております(メリルリンチの意見書(写)は、当社(日本興亜損害保険株式会社)のウェブサイトに掲載されています)」(下線は債権者代理人が付した。)

と記載されている。

②、上記「一定の条件」については、ウェブサイトに掲載されているメリルリンチの意見書の2頁中段の「本意見書を作成するにあたっては、・・・・・・前提としております」という段落に記載されている。

そこには、公開情報の正確性等、通常付される前提条件が並べられているが、それ以外に、

「弊社(メリルリンチ)は、貴社(日本興亜損害保険株式会社)の指示により、相手会社(損保ジャパン)の提供する金融保証保険に関し、貴社(日本興亜損害保険株式会社)又は相手会社(損保ジャパン)から弊社(メリルリンチ)に提供された代替予想損失についての検討を行っておりません。」
と記載されている(括弧内は申立代理人が追記した)。

すなわち、メリルリンチは、日本興亜損害保険株式会社の指示によって、損保ジャパンの金融保証保険の代替予想損失の検討を意識的に除外した上で、株式移転比率が公正と判断したのである。

(注)「貴社の指示により」という文言が「代替予想損失の検討を行わなかったこと」にかかることは、日本興亜損害保険株式会社が米国SECに提出した、メリルリンチ意見書の英訳文が下記のとおりとなっていることから明らかである。

At your direction, we did not consider for purposes of our opinion any alternative projection of losses from financial guarantee insurance by Sompo Japan that were provided to us by the Company or Sompo Japan.

③、メリルリンチが検討対象から外した「金融保証保険」とは、損保ジャパンが四半期決算短信の参考資料として四半期毎に公表****************************************************************************************************

同社の2009年5月20日付けの決算短信参考資料によれば、「金融保証保険」2008年度の損失額は1466億円に達している。**************************************************

④、このような重要な決算情報を検討対象から外すようにメリルリンチに指示して提出を受けた意見書は、本件株式移転比率について「財務的見地から公正である旨の意見書」ではない。

従って、会社法第301条1項並びに会社法施行規則第91条3号及び同第206条1号は、「会社法773条1項5号の株式移転完全子会社の株主の割当に関する事項についての相当性に関する事項」を株主総会参考資料に記載しなければならない旨規定しているところ、日本興亜損害保険が株主に送付した本件臨時株主総会招集の参考資料は、上記のとおり「相当性に関する事項」が記載されていない。

⑤、また、金融商品取引法第13条は、本件株式移転計画のような組織再編にあたって(金融商品取引法第2条の2は、「組織再編成」とは、合併、会社分割、株式交換の行為及び政令で定めるものであり、政令は「法2−2−1項に規定する政令で定めるものは、株式移転とする」旨、規定している。また第4条は、有価証券の募集は特定組織再編成発行手続を含む旨規定している)、「何人も目論見書以外に文書、その他の資料(電磁的記録、本件メリルリンチの意見書)を使用する場合には、虚偽の表示または誤解を生じさせる表示をしてはならない」旨規定しているところ、本件株式移転比率の相当性に関する参考資料中の、何らその内容に説明のない「一定の条件」の記載は、同規定に違反し、虚偽ないし誤解を生じさせる表示をするものである。

⑥、実質的に見ても、共同持株会社の設立に際して、株式移転比率の相当性に関する事項は株主にとっての最も重要な関心事項であり、その部分に虚偽ないし誤解を生じさせる表示があれば、本件経営統合議案への賛否表明に決定的な影響を及ぼすことは明らかである。

⑦、以上のとおり、本件臨時株主総会の招集手続き及び決議の方法には重大な瑕疵があり、仮にもこのまま総会決議が行われれば取消を免れないものである。

(3)被保全権利を根拠づける事実2———臨時株主総会招集通知の参考資料の株式割当に関する相当性に関する重要な事実の不記載

①、日本興亜損害保険株式会社の経営統合計画の相手側である損保ジャパンは、平成21年5月27日に劣後債1,280億円(以下「本件劣後債」という)を発行した。

②、平成21年12月1日付けで発送された日本興亜損害保険株式会社の「臨時株主総会招集のご通知」の「別冊1株主総会参考書類7ページ」後に生じた会社財産の状況に重大な影響を与える事象はない」旨記載されていた。

③、しかるところ
、債務者は、平成21年12月15日、臨時株主総会の変更の通知を発し、株主総会参考書類の内容を一部変更し、本件劣後債について、「損保ジャパンの最終事業年度の末日後に生じた会社財産の状況に重要な影響を与える事象の内容」欄に記載した。

④、ところが、同通知書には、本件劣後債が会社財産の状況にどの程度重要な影響を与えるのかについて、具体的な記載が全くない。

たとえば、重要な指標となる利率について、「固定利率」とのみ記載されているだけであり、具体的利率は一切記載されていない。仄聞するところによれば、本件劣後債権は、当初5年間は「長期プライムレート+3%」の利率の固定利率とされており、本年5月の長期プライムレートが2.1%程度であったことからすると、年5%を超えるものである(債務者はこの点否認するのであれば具体的な率を明らかにされたい)。

****************************************************************************************************

ところが、これを単に「固定金利」と記載されれば、株主は、大手の金融法人発行の劣後債(たとえば、現在******の劣後債****億円が公募されているが、この利率は1.89%の固定金利である)の金利水準と同等のものとしか考えない。

平成26年5月28日以降の金利についても、一見詳細な記載があるように見えて、およそ一般株主にその具体的な内容を理解することは不可能である。本件劣後債は、適格機関投資家向けに発行されたものであり、目論見書等の記載は、この程度で足りるかもしれないが、およそ、株主総会における株主の権利行使の観点からは、全く記載がないに等しいものである。
償還期限に関して、「本社債がソルベンシー・マージン規制上の負債性資本調達手段等として参入されなくなるおそれが軽微でないと判断した場合」には、全部の繰り上げ償還ができる旨の記載があるが、****************************************************************************************************ソルベンシー・マージン規制が近い将来に変更されることは、保険業界の常識であるが、それについて、何らの説明も行われていない。

経営統合の相手側が今年になって発行した1280億円もの社債の利率や、償還期限が60年後と言いながら実際には近く繰り上げ償還を必要とすることなど、その財務の状況は当社株主にとっての最も重要な関心事項であり、本件経営統合議案への賛否判断には決定的な影響を及ぼすものである。

④、債権者らの申立を受けて、いったんは、上記劣後債の存在を開示して、その場を取り繕おうとしたものの、上記のような重要な事実は依然として開示されていない。

よって、本件臨時株主総会の招集手続き及び決議の方法には重大な瑕疵があり、仮にもこのまま総会決議が行われれば取消を免れないことは、(2)と全く同様である。


(4)被保全権利を根拠づける事実3———臨時株主総会での株主の議決権行使に対する制限と瑕疵

①、日本興亜損害保険は、平成21年12月1日に同社の役員及び社員などに命令して、臨時株主総会に主たる株主(主に1万株以上保有する株主。これは発行済み株式総数のほぼ96%を占める。)に対して議決権行使書面の提出を依頼する一方で、提出した株主が総会への出席を希望した場合、総会場には出席はできず、総会場での議決権行使はできないかのような誤った情報を与えて株主総会への出席を断念させようとする働きかけを行っている。

すなわち、株主説明時のQ&AのQ3「どうしても当日出席したいと要望される株主にはどう対応したらよいか」という設問について、

「Q1の趣旨を説明してもなお、当日出席を強く要望される場合は、
① 議決権行使書は事前に送付いただく
② 当日は名刺を会場受付にご呈示いただき、会場隣接のモニタールームで「見学」していただく
(当日出席者にはカウントされません。)

ことでご理解いただくようお願いします。」

と対応方針を決定している。

同社は、平成21年12月16日にも、再度同社の役員及び社員に対し1万株以上の株主に対し、同様の行為を行っている。

以上の行為は、議決権行使書面を一旦提出した株主が本来有している総会に出席した上で議決権行使を行う権利を妨げるものに他ならない。

②、また、同社は、それぞれの株主の反応を12月11日までに報告するように役員及び社員などに命令しているから、同社の株主の多くは、そのころまでに、議決権行使書を同社に発送したものと臨時株主総会招集のご通知で求められた株主総会の出席を同社の役員または社員の働きかけにより断念し、虚偽記載の事実を知る前に議決権行使書を提出したものと思われる。

ところが、同社は前記のとおり、その後、同社は、臨時株主総会招集通知の虚偽記載を理由とする株主からの臨時株主総会開催差止の仮処分を平成21年12月11日に東京地方裁判所に申立てられ、平成21年12月15日に、臨時株主総会の会日を平成21年12月30日に変更し、併せて損保ジャパンの1280億円にも上る劣後債の発行等について新たに開示を行った。その開示がなお不十分である点はひとまず措くとして、かかる重要事実が開示された以上、従前そのことを知らずに株主から提出された議決権行使書は、もはや前提が違う以上無効である。ところが、これを有効として取り扱うこととしている。臨時株主総会招集通知の修正を行い、また、臨時株主総会の会日を平成21年12月30日に変更した。これでは、大多数の株主の議決権行使が適正に行われないこととなる。

③、議決権行使書の制度は、遠方の株主の株主総会での議決権行使を可能にするための制度であり、株主本来の総会での議決権は、議決権行使書を提出済みであっても奪うことの出来ないものである。また、議決権行使書による議決権行使は、株主が議決権を行使するに必要な情報が十分に開示されていることを前提としているから、当該開示情報が不十分であった場合は、それまでに提出された議決権行使書は当然に無効とされるべきものである。

この何れの点でも、株主の議決権行使を制限し、また、本来無効な議決権行使書を有効として取り扱う点で、本件臨時株主総会がこのまま開催された場合の決議方法等には重大な瑕疵があり、取消を免れないものである。

(5)以上のとおり、債務者が日本興亜損害保険の代表取締役として開催しようとしている本件臨時株主総会には、招集手続や決議の方法等に重大な瑕疵がある。そして、かかる瑕疵がありながら決議が行われた場合は、会社に回復することのできない損害が生じる。

すなわち、本件株式移転を前提に、来年3月29日に日本興亜損害保険の東証等への上場は廃止されることが予定されているが、将来本件株式移転決議が取り消されて株式移転が遡って効力を失っても、日本興亜損害保険が上場企業としての地位を当然に回復することは出来ず、資金調達等様々な点で会社としての円滑な経営が害されることになる。

また、本件株式移転を前提に、日本興亜損害保険と損保ジャパンは、商品・事務・システムの統合を行うとされているが、将来本件株式移転が取り消されて遡って効力を失った場合、こうした商品やシステムの統合も白紙にせざるを得ず、その結果、現場に大きな混乱が生じる事は避けられない。

その他にも、経営統合によって生じる代理店の離反や統廃合による営業基盤の毀損等、将来本件株式移転決議が取り消されて株式移転が遡って効力を失った場合に日本興亜損害保険に生じる様々な損害は、到底回復する事の出来ないものである(経済的損失であるとしても、その回復を求めることのできる資金力のある相手が存在しない。)。

よって、債務者に対して、本件臨時株主総会の開催中止を求めることが出来る(会社法360条3項)。
2、保全の必要性

(1)決議事項の重要性

本件臨時株主総会は、日本興亜損害保険株式会社と損保ジャパンとの共同株式移転計画についての承認が決議事項となっており、日本興亜損害保険の将来に関わるものであり、株主にとってその賛否は極めて重要なものである。

(2)また、外人株主比率も高い、日本を代表する損害保険会社間の企業結合を行おうとするものであって、その株主総会決議が適正に行われることは、我が国の会社制度の信用性にも関わるものである。

債権者らは、提案されている企業結合には反対するものであるが、************************************************************************************************************、損保ジャパンとの企業結合の当否、及び、その比率は、このような相手方の状況を適切に開示して株主総会で適正に決議して行われるべきである。

ところが、その開示のチャンスが与えられたにもかかわらず、債務者は、その機会を生かそうとせず、そればかりか、議決権行使書のみを先行して提出させて株主総会への出席をしないように株主に働きかけ、また、重要な事項を開示する前に提出された議決権行使書を有効として取り扱うこととしている。

臨時株主総会を再度延期するなどした場合に、一定の費用が発生することは否定できないが、それは、本件のような会社の100年の計を決する重大な決議を瑕疵なく行うことの必要性を何ら否定するものではないし、また、決議が取消されれば、その損害が回復できない事は上記の通りである。

(3)本件臨時株主総会の開催日(平成21年12月30日)は間近かに迫っており、たとえ本案訴訟を提起しても同期日までに本案判決が確定しないことは明らかである。よって、同株主総会開催後は差止請求自体が無意味になってしまうので、債権者らは本申立に及んだものである。

疎明方法

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